「こんな過激な運動は体によくないのよ」ポルガラがあえぎ続ける王にむかって言った。「いったい何で、あんなに頑固に拒否したの」
「じつはわたしは高所恐怖症なのだ」とローダー王は答えた。「あんな機械仕掛けで崖をあがるくらいなら、十回だって登ってやるさ。まったく足の下に何もないというのは、身の毛もよだつような思いがする」
 バラクはにやりと笑った。
「頼むから何か食べ物を持ってきてくれ」ローダーは哀れっぽい声を出した。
「冷たい鶏肉ならありますが」ダーニクは気づかうように申し出ると、こんがり狐色に焼けた鶏の脚をかれにさし出した。
「どこでこんなものを見つけた」ローダーは肉をもぎとるように奪いながら叫んだ。
「タール人が持ってきたのです」ダーニクが答えた。

「タール人ですって」セ?ネドラは驚きの声をもらした。「何でタール人がここにいるの?」
「降伏したのです」ダーニクは答えた。「この一週間ばかりで、すべての村落の人々がここへ来ました。かれらは要塞まで歩いてくると溝の前に座りこんで、捕らえられるのを待っていたのです。タール人はじつに辛抱強く待ちました。まる一日かそれ以上、要塞の中からかれらを捕らえる者たちが出てこないこともあったのですが、いっこうに平気なようすでした」
「なぜ捕まりにきたのかしら」セ?ネドラがたずねた。
「ここにはグロリムたちがいないからです」ダーニクが説明した。「トラクの祭壇もなければ、いけにえを捧げるための刀剣もありません。タール人はそのようなものから逃げられるのなら、捕虜としての不自由さも耐え忍ぼうと考えたようです。わたしたちはかれらを集め、要塞の中で働かせています。きちんとした監督さえしてやれば、じつに勤勉に働く者たちです」
「だがそんなに信用して大丈夫なのか」ローダーは口いっぱいに鶏をほおばりながらたずねた。
「スパイがまじっているかもしれんぞ」
 ダーニクはうなずいた。「わかっています。しかしそのようなスパイはみなグロリムです。タール人にはスパイとしての資質がないので、グロリムは自分たちでやらねばならないのですよ」
 ローダー王は思わず鶏の肉をのみこんだ。「グロリムのスパイを要塞の中に入れたというのか」
「それほど深刻なことではありません」ダーニクは言った。「タール人は誰がグロリムかを見分けることができるので、かれらに問題を一任してあります。かれらはグロリムを見つけ出すたびに、崖にそって一マイルほど離れたところへ行き、そこから突き落としています。最初のうちはここから突き落としたがっていましたが、タール人の長老たちは、作業が行なわれているところにグロリムを落とすのは失礼であると考え、邪魔にならないところまで連れていくようになったのです。じっさいかれらはなかなか思慮深い連中ですよ。信用しても大丈夫でしょう」
「鼻が日に焼けたようね。セ?ネドラ」ポルガラが小さな王女に言った。「帽子はかぶらなかったの」
「だって、あれをかぶると頭が痛くなるんですもの」セ?ネドラは肩をすくめた。「少しぐらい日焼けしたって病気になるわけでもないし」
「あなたは自分の顔をもっと大切にしなくてはいけないのよ」ポルガラは言った。「鼻の頭がむけていては、あまり女王らしく見えないでしょう」
「あら、別に心配することないじゃない。いざとなれば、あなたがあれで治してくれれば――」そう言いながらセ?ネドラは魔術を使うような仕草をしてみせた。
 ポルガラは冷ややかな目でセ?ネドラをじっと見た。
 チェレクのアンヘグ王が、がっしりした〈リヴァの番人〉をともなってやってきた。「やあ、崖登りは楽しかったかね」かれはローダーに愉快そうにたずねた。
「鼻にパンチを食らいたいのか」ローダーが言った。
「おやおや、今日はご機嫌が悪いようだな。だがきみの気分を少しは明るくするようなニュースが届いたんだがな」
「急な要件か」ローダーは大儀そうに身を起こしながら言った。
 アンヘグはうなずいた。「きみが崖登りしているあいだに下から届けられたんだ。信じられないようなことが起こったぞ」
「ともかく内容を教えてくれ」
「きみは絶対に信じないぞ」
「アンヘグ、さっさと言ってくれ」
「われわれはあらたなる戦力を得ることになる。イスレナとポレンはそのために、先週はずいぶん忙しかったようだ」
 ポルガラが鋭い目つきでアンヘグを見た。
「なあ、おい」アンヘグ王は、折りたたまれた紙を取り出しながら言った。「わたしはあのイスレナが読み書きできるとは夢にも思ってはいなかったが、こんなものが来たのだ」
「もったいぶるのはおよしなさい、アンヘグ」ポルガラがたしなめた。「ご婦人方がいったい何をしたというの」
「どうやらわれわれが出発したあと、態神信者がのさばり出したようだ。グロデグは男たちが留守のあいだに天下を握ろうと考えたにちがいない。やつがヴァル?アローンで権力をふるい始めるのと、ときを同じくしてそれまでボクトールのドラスニア情報部本部にもぐりこんでいた信者どもの動きも活発になった。連中はここ数年来、この日のために着々と準備をしていたようだな。とにかくイスレナとポレンは情報を交換し、グロデグの力がどれほどまで両国間に浸透しているかを知り、ついに最終行動に踏みきったのだ。ポレンは熊神信者たち全員をボクトールから追い出し、かれらをもっとも過酷な任務につけた。一方、イスレナはヴァル?アローンの信者たちを一人残らず狩りだして、戦地にむかわせた」
「信じられん」ローダーは、びっくりしてあえぐように言った。
「驚くべきことだとは思わんか」アンヘグ王は粗野な顔をゆっくりとほころばせた。「何といってもすごいのは、わたしにすらできなかったことを、あのイスレナがやってのけたことだ。女性は聖職者や貴族を捕らえることに――たとえば対決する証拠を集めたりするとかいった配慮などにまったく無とんちゃくらしいな。彼女たちに対するわたしの過小評価は、彼女たちの無知と同じように一笑にふされることだろう。むろんグロデクには詫びのひとつも言わねばならんだろうが、ことはもう起きてしまった後なのでな、熊神信者たちはやってくるのだし、かれらを戻らせるもっともな理由もない」
 ローダーもアンヘグと同じように人の悪い笑みを浮かべた。「グロデグをどうするつもりだ」
「やつはさぞかしかんかんに怒っているだろう。イスレナはすっかりかれの面目をつぶしてしまったのだ。われわれと合流するか地下牢へ行くかとせまったらしい」とアンヘグ王。
「ベラーの高僧を地下牢へ送りこむなんてできるわけがない」ローダーが大声を出した。
「だがイスレナはそのことを知らなかったし、グロデグにもそれがわかったのさ。誰かがやってきてそれが違法だということを教える前に、彼女はあいつを一番深いあなぐらの壁に鎖で縛りつけていただろうな。イスレナがあの老いぼれふいごに最後通牒をつきつけたところが目に浮かぶようではないか」その声はひどく得意気だった。
 ローダー王がずる賢い笑みを浮かべて言った。「この作戦は、遅かれ早かれ大激戦になるだろうな」
 アンヘグ王はうなずいた。

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