ダーニクはしかつめらしくうなずいた。「かすかにね」
 ヘターは渋い顔をしたあと、エランドにこっそり片目をつぶってみせた。エランドとヘターはウマが合った。なんでもいいからしゃべって沈黙を埋める必要にかられたことが、ふたりともないせいだろう。
「わたしはこれで失礼します」。「楽しい旅でしたよ」かれはポルガラにおじぎをし、ヘターにうなずいたあと、鎧を鳴らす分隊を率いて、ミュロスのほうへ戻っていった。
「このことについてはフルラクと話し合うつもりだ」ベルガラスは陰気にヘターに言った。
「きみの父上ともな」
「不死身であれば、しかたのない代償のひとつですよ、ベルガラス」ヘターはそっけなかった。
「人々はあなたを尊敬するようになっているんです――たとえ尊敬してくれないほうがいいとあなたが思うときでも。では行きましょうか?」
 東センダリアの山並は、山越えが不愉快になるほど高くはなかった。たけだけしい容貌のアルガー一族に荷馬車の前後を守られて、一行は楽なペースで緑濃い森をぬけ、流れの急な山の小川のわきを通って、〈北の大街道〉をたどっていった。馬を休ませるためにある場所で止まっていたとき、ダーニクが荷馬車からおりて道ばたへ歩いていき、泡だちながら流れおちる小さな滝の下にできた深い水たまりをしげしげとながめた。
「この旅は特別急ぐんですか?」彼はベルガラスにたずねた。
「いや、それほどでもない。なぜだね?」
「昼食をたべるのによさそうな場所だと思ったんです」鍛冶屋はへたな言い訳をした。
 ベルガラスはあたりを見まわした。「あんたがそうしたいんなら、かまわんよ」
「よかった」ダーニクはややうわの空といった例の表情で荷馬車にとってかえし、袋の中からひと巻の細い蝋びきの紐をとりだした。その紐の一端に色あざやかな織り糸を巻いたかぎ針をむすび、きょろきょろしながら、細くてよくしなう若木をさがしはじめた。五分後、ダーニクは水たまりの上にはりだした岩の上に立って、滝のすぐ下の渦巻く水に釣り糸をなげこんだ。
 エランドは流れのふちまでぶらぶらおりていって、見守った。ダーニクは流れのまん中に糸をなげて、流れの急な緑の水が疑似餌を水中深くひきずりこむのを期待していた。
 三十分ほどたったころ、ポルガラがふたりに呼びかけた。「エランド、ダーニク、お昼ができたわよ」
「わかった」ダーニクはうわの空で答えた。「いま行くよ」
 エランドは従順に荷馬車にもどったが、目はさかまく水のほうばかり見ていた。ポルガラはむりもないわ、といった顔でちらりとエランドをながめると、少年のために切っておいた肉とチーズをパンにのせて、小川の士手へ持っていけるようにしてやった。
「ありがとう」エランドはひとこと言った。
 ダーニクはまだ一心不乱に釣りをしていた。ポルガラは水のふちへおりていって、声をかけた。「ダーニク。お昼よ」
「わかった」目を水に釘づけにしたまま、ダーニクは答えた。「すぐ行くよ」また釣り糸をなげこんだ。
 ポルガラはためいきをついた。「やれやれ、どんな男にも最低ひとつは悪い癖が必要らしいわね」
 さらに三十分たつと、ダーニクは困惑した顔つきになった。岩からとびおりて小川の土手に立ち、頭をかきながら腑に落ちぬ表情で、渦巻く水をじっと見つめた。「魚がいるのはわかってるんだ」と、エランドにむかって言った。「感じられるほどなんだよ」
「ここだよ」エランドは土手のそばの動きののろい深い渦を指さした。
「もっと遠くにいると思うがね、エランド」ダーニクは疑わしげだった。
「ここだよ」エランドはくりかえして、また指さした。
 ダーニクは肩をすくめた。「おまえがそう言うんなら」頭から信じていない態度で、疑似餌を渦に落とした。「やはり魚は流れのまんなかにいると思うね」
 次の瞬間、いきなり竿がしなって、ふるえた。ダーニクはたてつづけに四匹の鱒を釣り上げた。どの鱒もよくこえてずっしりと重く、わきばらに銀色の斑点があって、湾曲した顎は針のような歯でいっぱいだった。
「ただしいスポットを見つけるのにどうしてあんなに時間がかかったんだ?」夕方近くに一行が街道へもどったとき、ベルガラスがきいた。
「そういう場所は組織的にわりださないとならないんですよ、ベルガラス」ダーニクは説明した。「片側からはじめて、餌をなげこむごとに移動していくんです」
「なるほど」
「スポットを見つけるには、くまなくあたってみるしかありません」
「そりゃまあそうだ」
「しかし、魚がいる場所はちゃんとわかっていたんです」
「当然だ」

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