次の週になると、雨をともなった突風が〈風の海〉の沖あいからふきつけ、冷たい強風と横なぐりの激しい雨が岩だらけの島をかきまわした。リヴァでは長期間快適な天候がつづくことはありえなかったし、この夏の嵐もごくありふれたものだったので、リヴァの人々は優悅 避孕これも自然のなせるわざとして、平然と受け入れていた。しかし、もっと南の陽光あふれるトル?ホネスで育ったセ?ネドラは、空が鉛色になって湿り気をおびはじめ、じっとりした冷気が城塞に侵入してくると、ふさぎこんでいらいらし、いつもの元気をなくすのだった。こういう悪天候をやりすごす方法として、彼女はいつも暖炉のそばの大きな緑色のビロードの肘かけ椅子に暖かい毛布と、一杯のお茶と、さまった――本はたいていアレンド風の恋愛物で、現実にはありえないほどすばらしい騎士と、半永久的に不幸の瀬戸際にいる嘆きの乙女たちがうんざりするほど登場する内容だった。しかし、外に出られない状態が長くつづくと、セ?ネドラはいつも最後には本をほうりだし、ほかの気晴らしをさがしにいった。
 煙突の中で風がうなり、雨が窓をたたいているある朝のこと、セ?ネドラは書斎に足を踏みいれた。中ではガリオンが北の領土における羊毛の生産量についての徹底的な報告書を注意深く読んでいた。小柄な王妃は白テンの毛皮でふちどりした緑のビロードのガウンをきて、退屈そうな顔をしていた。「なにをしているの?」彼女はたずねた。
「羊毛について読んでいるんだ」
「どうして?」
「知っていて当然のことらしいからさ。だれもかれもが立ちどま優悅 避孕っては真顔で羊毛の話をしている。みんなにとってはすごく大事なことらしいんだ」
「本当にそのことがそんなに気になるの?」
 ガリオンは肩をすくめた。「請求書をはらうときに役立つからね」
 セ?ネドラはぶらぶらと窓に近づいて、ふりしきる雨を見つめた。「永遠にやまないのかしら?」たまりかねたように言った。
「やむさ、そのうち」
「アレルを呼びに行かせるわ。ふたりで町へ行ってお店を見て回れるかもしれないもの」
「外は大降りだよ、セ?ネドラ」
「マントをきて行けばだいじょうぶよ。ちょっとぐらいの雨で溶けたりしないわ。お金を優思明少しいただける?」
「先週あげたばかりだろう」
「あれは使っちゃったの。もうちょっといるのよ」
 ガリオンは報告書をわきにおいて、壁ぎわのどっしりした飾り棚に歩み寄った。上着のポケットから鍵をとりだして飾り棚の鍵をあけ、一番上の引出しをあけた。セ?ネドラが寄ってきて、興味ありげに引出しをのぞきこんだ。金銀銅の硬貨がごちゃまぜの状態で、半分ほどはいっていた。
「これみんなどうしたの?」セ?ネドラは声をあげた。
「ときどき渡されるんだよ」ガリオンは答えた。「持ち歩きたくないから、ここへほうりこんでおくんだ。知っているとばかり思ってたよ」
「どうしてわたしが知るはずがあって? なにも教えてくださらないじゃないの。そこにいくらあるの?」
 ガリオンは肩をすくめた。「さあ」
「ガリオン!」セ?ネドラはあぜんとしたようだった。「勘定もしていないの?」
「ああ。勘定すべきかい?」
「あなたがトルネドラ人じゃないいい証拠ね。王室のお金はこれ全部じゃないんでしょう?」
「うん。ほかのところに保管されてる。これは個人的な支出用だろう、たぶん」
「勘定しなくちゃだめよ、ガリオン」
「時間がないんだよ、セ?ネドラ」
「いいわ、わたしが勘定します。その引出しをだしてテーブルにのせてちょうだい」
 ガリオンは重みにぶつぶつ言いながら引出しを運び、セ?ネドラが腰をおろしてうれしそうにお金を数えはじめたのを見て、いとおしそうに微笑した。硬貨を扱ったり積み上げたりすることをセ?ネドラがそれほど喜ぶとは思ってもみなかった。お金のたてる陽気なチリンという音が耳を満たすと、彼女の顔は文字どおり輝いた。中に何枚か変色した硬貨があった。セ?ネドラは不服そうにそれを見ると、勘定を中断してガウンのへりで注意深く磨きはじめた。
「町へ行くんじゃなかったのかい?」テーブルの反対側にふたたび腰かけると、ガリオンはきいた。
「きょうはやめるわ」セ?ネドラは硬貨を数えつづけた。髪がひとふさ顔にかかると、うわの空でそれをときどきかき上げながら、一心に仕事をした。引出しからもうひとつかみ硬貨をとりだすと、目の前のテーブルに用心深く積みはじめた。その顔つきがあまりにも真剣なので、ガリオンはふきだした。
 セ?ネドラはきっと顔をあげた。「なにがそんなにおかしいの?」
「なんでもないよ」ガリオンはセ?ネドラのたてるチリンという音を聞きながら、仕事に戻った。

 

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